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李香蘭

李香蘭 9月30日18時30分開演 四季劇場「秋」

    昭和の歴史三部作へのお誘い

     6月上旬、学校の先生をしている友人から「ミュージカル見に行かない?」とのお誘い。普段、ミュージカルは苦手だと言っていたので意外だったのですが、「昭和の歴史三部作」で、その友人が大学で専門にしていた分野だったこと、社会の先生なので授業に使えること……というのが理由だったみたい。私もその時代の国際関係を専門に学んでいたし、同じ研究室で満州を研究している人にくっついて中国東北地方に行ったこともあったので、「あぁ、いいよ〜」って。
     その友人、「三作全部付き合わせるのは悪いから行きたいのだけでいいよ」と言ったんですけど、同じ演目に通いつめる私には無用の心配ですよね〜〜^^; 現に、この三部作、約2か月ずつの公演なので、「半年で3回……少ないじゃん!」と思ったアホなので。

    初!和製ミュージカル

     よく考えてみると、今まで翻訳ミュージカルしか観たことがなかった私。エリザ、レミゼ、オペラ座の怪人、M!……ぜ〜〜んぶ、ヨーロッパ!!「まずは代表的な作品から観よう」とした結果、こうなってしまったのですが。そういうわけで、日本で創られたオリジナル作品は初めて。戦中〜戦後の歌謡曲や唱歌が使われてるみたいだし、別の楽しみ方ができるかなぁ〜と期待して行ったのですが………最初にお断りします。ゴメンナサイ m(__)m 理解できなかった………そのため、相当な辛口になっていますので、四季ファンや翻訳ミュー反対派の方は読まない方がいいかもしれない^^;

    第1幕:前奏曲・群集の怒り・川島芳子(全ては終わった)・上海軍事法廷
    さすがに四季!群舞のダンスと高い水準で揃った歌声に圧倒されました……が、李香蘭が上海の法廷に引きずり出される時に群衆にもみくちゃにされながら出てくるところでバレエのようにリフトされたり、グランジュッテのようなジャンプをしたりする姿に(A^_^;)でした。ミュージカルだからといって無理に振りを付けて出てくる必要はないと思うんですけどね〜〜

    李香蘭の命名・中国と日本・中国と日本〜アジアの明日
    中国と日本、二つの国が手を取り合って仲良くできるように、という内容の歌詞。このミュージカルの時代だと日満親善という美名の裏に隠された日本の占領統治の実態を考えてしまうので、素直に「良い曲ね〜」とは言えませんが、ひとりの人間同士、こういう気持ちになれたら様々な国の人たちとうまくやっていけるのに………

    川島芳子(迷惑な奴)・満蒙は日本の生命線・昭和モンタージュ・マンチュリアンドリーム・平頂山事件
    今回の出演者の中で唯一目を引いたのが川島芳子を演じられた方!!「男装の麗人」でオイシイ役どころではあるんですけど、歌も上手だったし何よりも格好良かった^^;(こういうのが趣味というわけではないので念のため…)今回、川島芳子が狂言回し的な役割を演じていて、当時の日本の軍部や社会情勢の説明をしているのですが、演技力がもう少しあれば言うことないんですよね〜〜ただのナレーションになっていたので聞いている方は退屈してくるんです。場面が変わるごとに空気を変えてくれたら作品の枠組みがはっきりしてくるのでは?!

    溥儀の悩み
    傀儡政権で皇帝に祭り上げられた愛新覚羅溥儀。それを風刺するかのようなお茶目なキャラになっていたんですが、中途半端すぎる!良くも悪くもアクがない普通の演技。重いテーマだけに笑いをとるというわけにはいかないと思うし、溥儀だけで一つの作品になるくらいのキャラなのでクローズアップし過ぎるのも良くないとは思うんですけど、誰もが知っている歴史上の人物……明確な意図を持った演出にしてほしい!

    北京の抗日学生・さよなら香蘭
    今回、戦死や戦争のせいで友と引き裂かれる場面が多くありました。本来は悲しいシーンであるはずなのに……ゴメンナサイ。はっきり言わせてもらうと見ていられなかった!!あまりに大根すぎる演技と場違いな歌い方に引いてしまいました。私は元々、突然歌い出したり、死に際まで大声で歌うミュージカルが苦手。全く歌えないキャストは論外だと思いますが、感情が前面に出て多少地声が混じったり音程がずれたりするのはいいのかなぁ〜と思ってて……

    抗日運動に参戦する愛蓮と香蘭の別れのシーン、一生懸命歌っているのは分かるけど、あそこまで頑張って歌われると不自然さを感じます。ミュージカルといえど、演技の方もきちんとしていただかないと……別れる時の気持ちが伝わってこないし、わざとらしい歌ばかり聞こえてくるし。それでも圧倒的な歌唱力があって、歌い方で表現しているならまだ救いようもあるんですけど……とにかく辛かった(泣)

    関東軍の参謀本部・満映撮影所・いとしあの星・花百蘭の歌・日中戦争モンタージュ・戦友
    兵隊さんよありがとう・十二月八日

    結末で李香蘭は何も知らなかった、歌声に罪はないとして無罪を言い渡されるのですが、その伏線になっているシーンだと思います。張作霖爆殺、五・一五事件、柳条湖事件、国際連盟脱退、廬江橋事件等々、重大なことが起こっているけど李香蘭はまだ小さくて何も知らなかった、という流れを作っていて……他のサイトの観劇記にもあったんですけど、「何も知らなかった」で終わらせてしまっていいのかなぁって思います。この作品自体、ナーバスなテーマなので特定の考え方や立場に立つわけにはいかないというのは分かるんですけど……実際に李香蘭こと山口淑子さんにインタビューしたことのある人と話をしたことがあって、詳細は公開できませんが、まぁ、ちょっと、ねえ………ゴニョゴニョ

    第2幕:間奏曲・月月火水木金金・川島芳子(日劇の李香蘭リサイタル)
    群舞の海兵役の人たちのダンス、素晴らしかったんですけど、日本の軍服姿や海兵姿で西洋のバレエを踊られるとすっごい違和感が( ̄□ ̄;)ストーリーから浮いてるし、「突然踊り出す」感があるし……これが和製ミュージカルの限界なのでしょうか?(詳細は後ほど)

    川島芳子が「日本人の働き過ぎはここからきているのでしょうか?」「(李香蘭の人気は)ヨン様どころの騒ぎではなかった」と言っていて、本来なら笑わせるところなんですよね。でも、作品のテーマの重さを拭いきれず、場の雰囲気を変えることもできず、滑っちゃってて………ホント、もう少しだけ演技力があればなぁ〜〜^^;

    何日君再来・蘇州夜曲・丸の内警察署長・夜来香
    年配の方々にはお馴染みの曲ばかり。父親が聞いていたテレサ・テンの歌を傍らで聞いていた(聞かされていた?)私は全て歌えました^^; 歌詞を見なくても口ずさめる自分が悲しかった……この作品、中国で上演されたこともあるみたいですけど、中国でコンサートを開く時に大もめしたテレサ・テンのことがふと頭に過ぎってしまいました。

    松花江上・香蘭と杉本の別れ
    やっぱり見てられなかった^^; 夜遅くに訪ねてくる杉本の状況が分からない。こっそり訪ねてきたのか、普通に香蘭に会いに来ていいのか……こっそり訪ねてきたのなら、あの大きな歌声はマズイと思うんですけど。まさに『ウェストサイド物語』のtonight状態!杉本&香蘭の歌もそれぞれが上手に歌おうと頑張っているだけで感情が伝わってこないし、二人で歌っている感がないんですよ。それぞれ“俺様”な感じで^^; もう、「あちゃー!!」と頭を抱えるしかなかった……

    若き戦士の辞世・海ゆかば・日本の敗戦
    特攻隊員の遺書、南方戦線で戦死した杉本の遺書を読み上げるシーン、会場中からすすり泣く声が聞こえてました。が!!私は泣けず……ここで読まれた遺書の出所、全部知ってたんですよね〜〜知覧の特攻記念館で実物を読んでいたのもあったし。私もその時はさすがに泣きましたよ。特に母親に宛てて書いた遺書には弱い……もし、記念館で大号泣したあの遺書が読まれていたら泣いてたかもしれないです。

    ただ、ここの演出は嫌いです。三木たかしさんの曲がムード歌謡風で、いかにも泣かせようとする旋律が、かえって鼻についてしまって……「忘れてはいけない歴史を伝える」目的が顕著に表れている場面、ドキュメンタリー映画ではないのだから、もう一ひねりあってもいいのではないかと感じました。

    群集の怒り・上海軍事法廷・二つの祖国・以徳報怨
    もう一度最初の場面の再現から始まってエピローグ、この構成も安直すぎます!!ドラマや映画でこの手法を使われるんなら、まだ許せるんです。でもミュージカルでこれを使うのはいかがなものかと思います。時間の流れを整理するにはとても丁寧で分かりやすい構成だと思いますが、な〜〜んか“予定調和”的な感じになって安っぽく感じられちゃって……そのせいか、「以徳報怨」の歌詞も素晴らしいのにご都合主義の結末を持ってきたなぁ〜って思ってしまうんですよね。ただ、軍事法廷の裁判長役の男性の歌は素晴らしかった。ああいう役どころには四季の歌い方がぴったりあてはまる!

     カテコ、『オペラ座の怪人』同様、あっさり終わるのかなぁと思っていたら、アンコール曲として「中国と日本」を披露。作品中では浮きまくっていた楽曲と演技ですが、一つの曲として聞くには素晴らしい曲だと思います。李香蘭と愛蓮のデュエットから始まって全員のコーラスでの締めくくり、この作品を公演する目的、意欲を感じました。

    ツライ!!

     見ていてこんなにツライ作品は初めてでした。ツライというのは、ストーリー的にではなくて作品、演出、歌的に……
     まず、『李香蘭』という作品について。凄くナーバスなテーマだと思います。いろいろな考え方や見方があるわけで、特定の立場に立って描くことはできない。でも、そのために一作品としての個性を出せずに歴史事項の羅列のような作品にあってしまい、退屈になってしまうのです。明るい内容ではないし、忘れてはいけない歴史を伝えようとする意欲は、とてもよく分かるのですが、ミュージカルなんです!!作品なんです!!もうひとひねりあってもいいのではないかと思いました。
     次に、和製ミュージカルについて。私は日本のオリジナル作品を観るのは今回が初めてだったのですが、ミュージカル自体、舶来物(ある方のお言葉だったりする^^;)なので、そのミュージカルの構成や音楽の使い方を日本のものにそのまま当てはめると無理があると感じました。劇団四季、群舞のダンスはめちゃめちゃ素晴らしいと思うのですが、日本の軍隊の格好や中国の服を着て、西洋生まれのバレエみたいなダンスをされると、「突然踊り出す」感が、海外生まれのミュージカル以上に出てしまって引いてしまって……音楽も、変拍子や和音階を使いつつ、曲の形式は西洋音楽を使うなどの工夫をしていただけるとなじみやすいと思うんですよね〜〜
     三番目に演技について。ズバリ!斬らせていただきます!!大根すぎます!!!ミュージカルである以上、歌えないのは論外ですが、歌ではない部分のセリフは棒読みだし、どう見ても悲しいシーンのはずなのに力強く高らかに歌い上げられると後ろから叩きたくなってしまう。歌の方もそこまで上手とは………もちろん、素晴らしい歌を聞かせていただいたキャストの方々もいらっしゃったけれど、全体的にもう少し頑張ってほしい☆
     ミュージカルでの歌はストプレでのセリフだと思うのです。だから感情を乗せるために地の声が入るとか、リズムが崩れるとか、そういうのは多少なら許せるのですが、ただ平坦に真面目に、それでいて圧倒されるような歌唱力もない……っていうのは辛すぎます。今回はあちこちで「突然歌って踊り出すミュージカル」の香りが………(泣)

    2005年10月3日 記

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